2009年2月22日日曜日

アンコール文明の誕生

2005年にアンコール遺跡を訪れた際に購入した写真集に納められていた文章(英文)を和訳してみた。
アンコール文明の本質をとらえた簡潔な文章で、遺跡を見たときに感じた様々な疑問を解消してくれた。



文明の誕生(Birth of a Civilization)

水は、シヴァ神のように、創造の源であると同時に生の大いなる破壊者でもある。
米が芽を出す大地を潤し、湖や川に住む魚を生かす。
目の前のもの全てを薙ぎ倒す容赦ない力にもなり得る。

太古の昔から東南アジアの人々の生活は交互に吹く南西と北東の偏西風~決まった風がそれぞれ半年間優勢になる~、によって規定されてきた。
だから何ヶ月もの乾燥した大地、洪水と乾燥の極みを引き連れて雨がやって来るのだ。

季節の循環~豊穣と荒廃の双方~は決して崩れないが、それを征することがアンコールの卓越したところだった。
扶南の水力土木技術の粋を受け継いで、古代クメールは水を手なずけ、余分を貯め、不足を補う巨大システムの一環として運河、溜池、堀や貯水池を建設した。

本質的にアンコールは水を完全に制御することから誕生し、それは水運の帝国だった。
帆船や豪商の帝国ではなく、灌漑が保証する豊富な収穫、運河がもたらす交通至便の帝国であり、巨大な石造寺院を水平にする帝国でさえあった。

象徴としても、偉大な寺院の山々を取り囲む濠の水は宇宙を表している。
水は娯楽でもあり、アンコールの貴族達はボートレースに歓声を上げ、水遊び場への艶かしい遠出ににやにやしたことだろう。

衰退に伴い、アンコールはその水に対する支配権を失った。
運河や溜池は帝国が弱体化し崩壊するにつれ、朽ちていった。

水は再び抑えが効かなくなり、主導権を握った。
植物よりも、人間よりも、水はアンコールの記念碑的栄光を徐々に貶めた。
しかし、絶妙の調和が失われたにもかかわらず、水はアンコールの生活を~楽しませるのと同様に~潤し続けている。

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