2009年2月26日木曜日

アンコールの名匠たち

名匠たち(Master Builders)

石は神々だけのもの、神々だけが石の宮殿に住む権利を持っている。
木造の東屋は死すべき人間の仮住まいには良いかも知れないが、神々は石の永遠性をお望みだ。

アンコールの全ての遺跡群は本質的に宗教建築であり、
気候と時間に抵抗できる石は寺院の山に代表される権力の究極的示威にうってつけの素材だ。
このように、石は現実と象徴の両面で文明が依って立つ礎となったのだ。

皮肉なことにアンコールやクメールの偉業を象徴する建築は、元々は石から生み出されたものではなかった。
初期の寺院に見られる屋根の湾曲した輪郭や楣(まぐさ)、切妻壁は、クメールの名工達が木造建築を雛形に彼等独特の様式を発展させたに違いないことの証拠だ。

まず最初に煉瓦が使われた。最も初期のアンコールの寺院はしっかりと接合され、完璧に並べられた層によって建てられている。
ラテライト(赭土)もまた好まれた素材で、耐久性もある。
しかし精緻な彫刻には適しておらず、従って美学的表現には不向きな媒体であった。

やがて砂岩が最高の建築媒体になった。
クーレン山から切り出され、川で街まで運ばれた砂岩はアンコールの最も偉大な記念碑の建設に使われた。
砂岩を使いこなすことによって、建築様式はその規模と複雑さにおいて進歩した。
寺院はより細密になり、神々の住処の象徴である全ての重要な中央塔が、かつてないほど複雑で装飾的な回廊や囲い地によって幾重にも囲まれた。

形態はアンコール・ワットにおいてその究極の、最も完璧な表現に行き着いた。
それは神々の力、そして同様にクメールの天才的名工達に対する記念碑でもある。

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